鳥居 正夫:写真家 / 青山 佳世:フリーアナウンサー / 宮池 克人:NEXCO中日本 社長 (順不同・敬称略)
鳥居 正夫:写真家
コロナ禍で東京オリンピック・パラリンピックも延期になってしまったこの年、当フォトコンテストも第13回目を迎えました。
当初の我々の心配をよそに前回を上回るほどの応募作品数。新緑の中の色鮮やかな花、黄金色の夕日に浮かび上がる橋など、季節別に分類された作品が並ぶ特大テーブルの間を審査員が右往左往する姿は例年の審査風景と変わりませんが、全員がすっかりお馴染みになったマスク姿です。四季折々の作品を拝見しているとホッとした気分になり、瞬時ではありますが、息苦しさを忘れることができる審査会になりました。
■テーマ1「高速道路と四季の風景部門」について
「高速道路と四季の風景部門」で<最優秀賞>に輝いたのは、菊池和夫氏の『朝霧湧く』。
望遠レンズ撮影では、ややもすると平面的になりがちな風景を、逆光での条件下、朝霧をうまく取り込むことにより、絶妙な奥行き感を表現している 。ハイコントラストの画像処理も緻密にされており、道路の描写も力強い印象的な作品になっている。
<優秀賞>(夏)二枚畑勇氏の『夕日に映えるトリトン』。毎回、多くの方が撮影に挑む人気スポットである「名港トリトン」。この作品は、構造物としての美しさや力強さを、日没前のわずかな時間帯の中でうまく捉えている。レンズの選択も巧みであり、完成度の高い構図の中、背景の工業地帯や貨物船のシルエットも効果的である。
<優秀賞>(秋)木下安雄氏の『黄昏時の輝き』。暗闇の中、眠りを知らない不夜城を思わせるような不思議な雰囲気を醸し出している。技術的には作者の説明を待たねばならないが、銀塩時代の多重露光を思わせる面白い表現になっている。
<優秀賞>(冬)山下多津美氏の『川霧に浮かぶ中部横断道』。正に「日本の風景」といった作品。高尚な日本画を鑑賞している気分になる風景である。とても緻密な計算のもとに撮られた写真に違いない。山間部を高速道路が横切り、その下に町の灯り 、そして冠雪の富士の山。贅沢すぎる風景である。全体にキレがあり画像処理も巧みなものがある。やや道路の調子を抑え気味にしても良かったのかもしれない。
<佳作>福田尚人氏の『新緑を跨ぐ』。光の乏しい中、長時間の露光を与えることにより、鮮やかな色彩を得ている。群青を背景に星の軌跡、架橋の赤、手前の緑との画面構成が面白い。タイムトンネルを連想させる抽象絵画を観ているようだ。
<佳作>中村公二男氏の『田植え直前 今だけの景色』。タイトルが示しているとおり、水を張った稲田の上を縦走する北陸自動車道。その天空をこれでもかと満点の星が降り注ぎ、水面にまで映し出されている。昼間でも絵になると思われる田園風景であるが、あえて夜間に撮影することにより、幻想的な世界を醸しだしている。
<佳作>武藤好美氏の『麦秋の風』。実りの秋、静寂の中で穂先が擦れ合う乾いた音。そんな気持ちのよい風が麦畑一面を吹き抜けていく、のどかな風景である。
<入選>宮脇優輝氏の『夜に浮かぶ雪化粧の立山』。松浦嘉人氏の『無人駅の風物詩』が選出された。
■テーマ2「あなたのとっておき風景部門」について
「あなたのとっておき風景部門」は例年と同様にバラエティに富んだ作品が多く、審査員一同大いに悩むところでありました。
そんな中、<最優秀賞>を獲得したのが、深野達也氏の『天空の道』。八ヶ岳の山麓の風景であろうか、澄み切った空気の中、秋を告げる強烈な西日を受けながら真っすぐ続く木道。
その遥か彼方に南アルプスを従え富士山が鎮座しているのである。肩の力が抜けたさりげない構図ではあるが、不思議な力を感じる。
<優秀賞>(春)加藤鉱太良氏の『栄枯盛衰』。鈴鹿地方の由緒ある梅の名所での撮影と思われる、永い歴史をじっと見つめてきた古木の梅の花。名所旧跡での撮影は、ややもすると絵ハガキ的になりがちだが、咲き誇り散ってしまった花びらに心惹かれたのでしょう。人の目に近い画角での自然な感じが心地よい。
<優秀賞>(夏)上野祐司氏の『はじける夏』。信州の真夏の一コマであろうか。山から流れてくる冷たい水と、暑い熱気のコントラストが子供たちの表情によく表れている。適切なシャッタースピードも水の軌跡を巧(うま)く捉えていて、流れ落ちる水の音や子供たちの歓声が聞こえてくるようだ。
<優秀賞>(秋) 川合久司氏の『山門輝く刻(とき)』。おそらく猿投(さなげ)山あたりの寺院での風景であろう。色鮮やかな紅葉のキャンバスに黒一色で絵を描いている ようで面白い。紅葉がこれほど多彩な色の重なりで成り立っていることに驚い た。
<優秀賞>(冬) 小笠原敦氏の『夕日に向かって』。浜名湖あたりに生息するカモメの群れであろうか、至近距離での撮影が躍動感を 生み 、迫力のある作品になっている。カモメも人に慣れているのか、カメラに向かって飛び立とうとしている様が面白い。
<佳作>神戸敏文氏の『大空へ』。真っ赤な唇のような形をしたパラグライダーが、絶妙なシャッターチャンスにより、富士山の頂をシャッターチャンスにより、富士山の頂を頬被(ほおかむ)りしているように見えているのが面白い。スケール感のある作品だが、人物の足下の表情が切れてしまっているのが惜しい。ケール感のある作品だが、人物の足下の表情が切れてしまっているのが惜しい。
<佳作>水野敬雄氏の『月光映える剱岳』。月の中の光であろうか。幾多の星を散りばめた群青の空の下、険しい剣岳が鎮座している。静寂の中、せせらぎの音が心に沁みる大人の写真。
<佳作>池芳江氏の『駈馬神事』。人馬一体となって疾走する姿。よく見ると手足を馬から離している。伝統的な神事とはいえ、正に曲芸である。スピードを上げて向かって来る被写体を的確に撮影するのは容易ではないが、絶妙なタイミングである。
<佳作>田中雅之氏の『湖北の黄金郷(エルドラド)』。午後のひと時、光を背に湖畔で静かにくつろぐ人々。無彩色の世界ではあるが、切り絵を観ているようなメルヘンチックな雰囲気が漂っている。
<入選>森下勉氏の『春望』。袴田啓志氏の『とつぜんの出来事』。中村清治氏の『夜も元気に咲く』。鈴木克哉氏の『秋の見返り美人』。村上雅巳氏の『未来のドライバー』の5点が選出された。
外出もままにならないこのコロナ禍の中、多くの方々から数多くの作品をご応募いただき審査員一同、感謝いたしております。
一日も早い終息を祈って止みません。
鳥居正夫
青山 佳世:フリーアナウンサー
2020年 フォトコンテストを終えて
今年のカレンダーも残すところ二枚、昨年審査をしたときには、実際に家でこのカレンダーを長い間眺めて暮らすことになろうとは想像もしませんでした。美しい風景写真にどれだけ癒やされたことか。
そんな中、今年のフォトコンテストの審査の日が近づいてきて、どうなることかと思っていました。会議はリモートでできても、フォトコンテストの作品の審査は、やはり実物を見て、複数の審査員と意見を交わしながらでないと、とても決めることができません。
撮影される皆さんもコロナ禍で自粛が続き、撮影に出かけられるだろうか、作品は集まるだろうかと心配しましたが、なんのその 。昨年よりも多くの応募がありました。いい風景がとれる場所は「三密」ではない場所にあることが多く、また在宅勤務などが増え、かえってじっくり撮影する時間ができたという方もいらっしゃるでしょう。そんなことをあれこれ思い描きながら 、一枚一枚作品を見ていきました。
アナログかもしれませんが、たくさんの写真を大きなテーブルに並べ、見比べる、、、人間の目は直感的に、一瞬にして作品から呼びかけてくる何かを感じ取ることができるものだとあらためて実感しました。撮影者の方の本当の想いかどうかは別ですが。
審査では撮影者のお名前は伏せて、第一印象だけで選定していきます。優秀な作品はだれが見ても心に響くもの、おのずと作品は絞られていきます。常連さんの作品も多く、いい作品はいい作品、しかし偏りがないように選ぶことは至難の作業でした。
季節ごとに素晴らしい作品、カレンダーにしたときに心に響く作品、今回も難しい審査となりました。縦長の作品で素晴らしいものがいくつかあって、ぜひカレンダーに掲載したいと思いましたが、カレンダーにするときにはレイアウト上、どうしても収まりが悪く、涙をのんだ作品もありました。もっともカレンダーに掲載されることが目的ではありませんが、せっかくなら大勢の皆さんとともに楽しんでいただきたいですね。
特に年の初めとなる一枚目には、「羽ばたき」という言葉がぴったりの力強い作品を選びました。来年こそは2020年の分まで輝き、飛び立つ一年になってほしいという願いを込めてです。
皆さんすでにご存じでしょうが、「GoToトラベル」事業の対象にも10月から東京都が加わり、本格的に全国展開となりました。また 、「GoToトラベル」事業の割引が適用される高速道路周遊パスも販売されています。個人の旅行に税金を投入することに関してはいろいろなご意見もありますが、すでに動き出した企画なら、せめて疲弊した地域や業界へ少しでも貢献するため、マスクと消毒などコロナ対策をしっかりとしたうえで、「三密」ではない穴場撮影ポイントへどんどん出かけて欲しいものです。そして地域共通クーポンは、ぜひ地元の商店や地域のお土産品など、元気が出るものの購入に使ってくださいね。地元の方々にも喜ばれるような旅をして気持ちもリラックスした時に、一コマシャッターを押す、きっといい作品が生まれるはずだと信じています。
最近一眼レフを片手に各地を回る「カメラ女子」が増えていると聞いています。このコンテストに応募される方の技術的なハードルは相当高いのですが、審査員一同、柔軟な感性を持ち合わせているつもりです。女性の感性を活かした作品も楽しみにしています。
来たる年も、メリハリの効いた素晴らしい写真とともにいい年になりますよう、また、大勢の皆さまからのご応募もお待ちしております。