西澤 広:中日写真協会理事 / 青山 佳世:フリーアナウンサー (順不同・敬称略)
西澤 広:中日写真協会理事
第16回審査会場には、時間帯を選ばず遠方に出掛けて撮影した応募作品がずらりと並べられた。日ごろ身に着けた写真技術やテクニックを十分に使って、心地よい風に吹かれた青空、力強く存在感を主張している太陽などバラエティー豊かな作品が目立ち印象的だった。高速道路や風景は動きませんが、限られた撮影条件や時間の中で、太陽の光はアッという間に変化し、季節はゆっくり進んでいきます。なかなか思い通りにならないのが写真の醍醐味で、奥が深くて楽しいものです。普段なにげなく見過ごしてしまいそうな高速道路やサービスエリア、新スポットなどアイデアが光るホッとする空間や季節の豪快な景色が広がる作品をお待ちしています。
■テーマ1「高速道路と四季の風景部門」について
<最優秀賞>に輝いたのは、上杉裕昭氏の『田園風景を見下ろす』。ゆるやかなカーブを描く東名阪道が、水面に青空を映した田園の中を爽やかに通り抜けている。シンプルな青空の両サイドに樹木の緑をアクセント。遠近感を上手く表現した構図は、感性の豊かさを感じます。
<優秀賞>(春)は、酒井謙二氏の『朝焼の談合坂』。山梨県上野原市の高台から眺めた中央道の談合坂SA。朝日に染まった空に広がる雲海、キラキラ輝くSAは魅力に溢れおとぎ話の宝石箱に吸い込まれてしまいそうです。撮影条件がそろった壮大なパノラマは絶景。
<優秀賞>(夏)は、岡部全市氏の『一輪の華』。水田に大きな円をどっしり描く東海北陸道の美濃関JCT。雄大な夜空に花火がパッと咲き夏の終わりを告げているようです。中心から花火をずらし右端にレイアウトしたことで、より花火が目立ち印象に残りました。
<優秀賞>(秋)は、上野祐司氏の『晩秋の時』。静岡県駿東郡の東名が霧に視界をさえぎられる中、うっすらと姿を現す東名足柄橋。棚田の稲穂や紅葉した樹木が競い合うように秋の気配を感じさせる。薄いカーテン越しから見たような別世界は見事です。
<優秀賞>(冬)は、中村則夫氏の『助手席からの景色』。北陸道の小矢部砺波JCT付近を走行中、助手席から目の前の風景を激写。タイミングよく一瞬のシャッターチャンスを逃しませんでした。ドカンと道路標識を立山連峰の上にピッタリ入れたアングルには驚きました。
その他、佳作4点と入選3点が選出されました。
<佳作>稲垣光正氏の『夕暮れの名港西大橋』。名古屋市の金城ふ頭から、伊勢湾岸道の名港西大橋と沈む夕日を望遠系レンズで距離感を圧縮して表現しました。上下に伸びる橋脚とアップダウンする高速道路が対照的でユニーク。力強い組み合わせは迫力満点です。
<佳作>近野和彦氏の『黄昏』。滋賀県米原市の北陸道を走るトラックが、淡いトーンのオレンジ色の空にかすむ。シルエットになって走行するトラックの荷台と道路のわずかな隙間から、一瞬キラリと輝いた夕日は美しく心が癒されました。
<佳作>中沢力男氏の『夜明けの高速道路』。新東名をまたぐ浜松市浜北区の橋の上から、東京方面を向いて太陽が昇るシーンをドラマチックに捉えた。車線上にスッと伸びるオレンジ色の光が勢いよく迫ってくる。躍動し続ける高速道路の幕開けです。
<佳作>小口照人氏の 『秋彩囲む岡谷JCT』。 長野道の岡谷JCTが紅葉した山に囲まれ、深呼吸を繰り返して大自然を満喫しながらパワーを充電しているように感じます。八ヶ岳の山並みや諏訪湖の優雅な光景は、毎日続く忙しい日常を忘れてしまいそう。
<入選>梅原秀宣 氏の『冬のソナタ』。富士市木島付近から、東名と東京方面に見える富士山や街灯りは壮観。富士川SAでライトアップされた観覧車が存在感をアピールするかのように堂々として見える。機会があれば観覧車に乗ってみたいです。
<入選>棚瀬大輔氏の『雷龍のステージ』。揖斐川に架かる伊勢湾岸道のトゥインクル揖斐川橋と雲の間から光る雷を見事に捉えた。雷の光は一瞬で、見えてからでは遅く長時間露光で光る前からシャッターを開けます。自然現象は臨場感たっぷりです。
<入選>山下多津美氏の『黎明の勘助坂』。静岡県の勘助坂から夜明けの富士山を背景に新東名を眺めました。富士市内の街灯りと東京方面に向かう車の赤いテールランプ、名古屋方面に向かう車のヘッドライトの光跡が互いに美しく共存している。
■テーマ2「あなたのとっておき風景部門」について
<最優秀賞>に輝いたのは、川合久司氏の『メルヘンの世界に誘われて』。愛知県豊田市の香嵐渓が黄金色にライトアップされ幻想的。人物を小さく入れたことがポイントで作品にボリュームが生まれました。樹木がクッキリと浮かび上がり、不思議な世界にタイムスリップしました。
<優秀賞>(春)は、神戸敏文氏の『大空へ』。浜松凧揚げまつりのワンショット。空高く風に吹かれて大きな凧が舞い上がっています。凧の糸が絡まって落ちそうで落ちない?カラフルな凧で大盛り上がりの会場から、大きな歓声が聞こえてきそうです。
<優秀賞>(夏)は、秋葉宏幸氏の『雄大な立山の夏』。立山登山道を登る途中でダイナミックな景色を撮影。山肌の緑がまぶしく、夏の風が爽快で気持ちよさそうです。建物周辺に多くの登山者らの姿が写り込み、大自然に囲まれた壮大なスケールに圧倒されました。
<優秀賞>(秋)は、中田幸一氏の『眺望絶佳』。好天に恵まれ、薄っすらと雪をかぶった白馬連峰や紅葉する山のロケーションは見晴らしが抜群です。スカッと広がる大地に、稲わらが束ねて干された光景は、海外の歴史物語の一場面に出会ったように感じる。
<優秀賞>(冬)は、大学肇氏の『川霧の朝』。長野道の安曇野ICから約10分、朝もやに包まれた犀川で白鳥が羽を広げて集まる光景は水墨画のようです。冬の厳しい季節に生き抜く白鳥の姿をモノトーンで表現し、グラデーションの微妙な色調が美しい。
その他、佳作3点と入選3点が選出されました。
<佳作>茂渡知氏の『手筒花火』。夜空にオレンジ色の手筒花火が勢いよく吹き上がり、にぎやかな雰囲気が一目で伝わってきます。座り込んだ見物客らの目の前に火の粉が降りそそぎ、地面の隅々まで飛び散っている様子はインパクト十分です。
<佳作>深野達也氏の『彩りの時』。長野県茅野市の御射鹿池で、紅葉したカラマツ林を美しい色調で画面いっぱいに切り取りました。静けさが漂う雰囲気の中、鏡のようになった水面に映り込んだ逆さまの光景は、構図に無駄な部分がありません。
<佳作>水野敬雄氏の『星降る夜』。富山県高岡市の雨晴海岸から女岩と雪が積もった立山連峰を絡め、静かな時間を迎えた空に星のシャワーが降り注いでいます。海と山1/3(写真下部分)、星空2/3の三分割のスペースで全体が安定しています。
<入選>岩原辰幸氏の『早春の安曇野』。安曇野にそびえる常念岳の山頂に雪が積り、2本のサクラが見事に花を咲かせています。天候にも恵まれ、季節を代表する雪とサクラが競い合うようにコントラストを描き、スケールの大きさに目を奪われます。
<入選>小笠原敦氏の『川面を舞う』。東名の磐田ICから約7分の見付地区で、風に吹かれてにぎやかにコイノボリが元気よく泳いでいます。川の水面に映るコイノボリが、水中をスイスイと泳いでいるようで面白い作品に仕上がりました。
<入選>田中雅之氏の『悠久の森を行く』。福井県勝山市の白山平泉寺で、薄暗い境内に日差しが漏れる。どこまでも続く石畳を両側から大きな杉の木が包み込み、凜とした空気がゆっくりと静かに流れているように感じます。光と影のバランスが印象的。
西澤 広
아오야마 카요 : 프리 아나운서
第16回 高速道路と風景フォトコンテストを終えて
2023年のカレンダーが、一枚一枚と減っていく寂しさとともに今年もフォトコンテスト審査会の季節がやってきました。この一年、応募なさった方にとって、どのような一年だったかしら、新しい年にどのような願いを込めて撮られたのかしら、と思いめぐらせながら皆さんの傑作の中から悩み抜いてようやく選んだ作品です。今回、コンテストの審査員のメンバーが変わりました。中日写真協会の西澤さんと、NEXCO中日本の社員が加わりました。私は、昨年までの審査の経験を引き継ぎつつ、それぞれの作品が新しい審査員の目にどのように映るか少し俯瞰したまなざしで見守ることにしました。まさに「審査も楽しむ」です、それぞれの世代や感性で心に響く作品がずいぶん異なることに新鮮な感動を覚えながら、甲乙つけがたく中々絞り切ることができずにいました。
カレンダーに使用する写真を選ぶ段階になって、順番に並べてみると、一目瞭然結論が出ました。季節ごとはもちろんのこと、色彩、題材の並びとバランス、バリエーションです。
新しい一年の希望に胸膨らませるような朝日が昇る作品、日本画のような穏やかな作品、黄金に輝く木々の紅葉を描いた作品、空や雲などなど、シャッターチャンスを見事に捉え、それぞれご自身のタッチで表現してくださいました。ご自身で満足できる一枚をとるためにどれくらいの時間をかけたのでしょうか。風景は天気や時間帯で全く違った表情になります。気に入った瞬間を収めるために何枚のシャッターを切ったのでしょうか。
お住まいの場所と比較的近くの場所で撮影なさった方も多いようです。お気に入りの場所へ何度も足を運んで、絶好のタイミングを狙って何回もチャレンジなさったのでしょうか。逆に撮影場所へわざわざ出かけ、絶好の瞬間に出会えたのでしょうか。
それぞれに素晴らしい作品はかりですが、今回は個人的な視点から、2つ作品のコメントをいたします。
まず、写真だけでなく『助手席からの景色』というタイトルが目を引きました。実は私も車の助手席に乗った時に、必ず写真を撮るのですが、スピードが速すぎて焦点が合わなかったり、突然目の前に現れた美しい風景にカメラの準備が間に合わず、シャッターチャンスを逃してしまったり、まして高速道路の場合、自分の車だけスピードを落したり停車できないので思うような写真を撮ることはほとんどできません。たとえ美しい風景写真がとれても、後になってどこの写真かわからなくなることがありました、なんとこの作品は、一瞬時間が止まったような錯覚を起こす高速道路の走行中、目の前に高速道路標識とその向こうにそびえる立山連峰の雪景色の美しさ、両方が兼ね備わっています。これは偶然の賜物でしょうか、それとも何回もこの場所を走行する機会があって、その瞬間を待ち構えて撮影した作品なのでしょうか。場所もはっきり特定でき、高速道路走行中の助手席からの撮影であることも、またその土地のシンボルである立山も美しく映っています。
そしてもう一つは、一台のコンテナを運ぶトラックに夕日が差し込んで神々しく見える作品。ここ数年「2024年問題」と言われ、物流・トラックに注目が集まりました。私たちの生活物資の92%(トンベース)はトラックによって運ばれています。長距離を走るトラックのドライバーさんの働き方が厳格化される中で、物流のあり方も効率化や環境への配慮、サスティナビリティが求められています。高速道路を走るシルエットになった一台のトラックのコンテナの丁度真ん中を貫くように夕日が差し込む光景は、まさに時代を象徴し、光を当てる作品に見えました。私たちの暮らしを支える高速道路とトラックの役割を改めて見直したいですね。
一枚一枚の作品を前に、私たち審査員も思いを巡らせながら大いに旅を楽しませていただきました。作者の方の思いと同じかどうか定かではありませんが、想像力を全開にして感動した素敵な時間でした。来たる年も良い年でありますように。また各地を巡りながら素敵な思い出を作って、一枚の作品として送ってくださることを楽しみにしています。
受賞者の皆さん、おめでとうございました。