鳥居 正夫:写真家 / 青山 佳世:フリーアナウンサー / 宮池 克人:NEXCO中日本 社長 (順不同・敬称略)
鳥居 正夫:写真家
当フォトコンテストも今回で12回目となりました。恒例の風景として、バラエティに富んだ作品群が所狭しと審査会場を埋め尽くしています。
2つの部門での募集も広く周知されたようで、今回も幅広い年齢層の方々から多数の応募をいただきました。両部門の入賞数も決められている中、例年のこととはいえ、入賞作品を絞り込むことに大いに悩まされた審査会でした。
「高速道路と四季の風景部門」で<最優秀賞>に輝いたのは、吉田拓史氏の『燃えよトリトン』。伊勢湾岸自動車道に架かる名港トリトンを伊勢湾の美しい夕焼けを背景に捉えた作品。群青色の空の下、美しくライトアップされた名港トリトン。その背景にある名古屋港を取り巻く工業地帯の夜景と橋のバランスが実に上手く構成されている。刻々と変化する空の雰囲気も絶妙なタイミングで捉えていて、まさに華やかかりし頃のハリウッド映画のタイトルバックを見ているような気持ちになる作品。
<優秀賞>(春)に選出された山﨑俊泰氏の『伸びゆく新東名』。柔らかな春の陽射しの中、桜の花の隙間を縫ってどこまでも伸びてゆく新東名高速道路。順光の優しい光の下、それを包みこんでいる桜のボケ味と、シャープに描写された車の対比が面白い。
同<優秀賞>(夏)外川俊行氏の『連なる脚』。新東名高速道路の建設工事現場。雨上がりの天候の中での撮影であろうか。暗雲漂う背景の中、真新しいコンクリートの橋脚表面に激しい雨によって作られたディティールを、フィルターワークを加えたり、露出を切り詰めたり、画像ソフトなどを駆使することによって、よりインパクトの強い調子に仕上げていると思われる。エイジング感漂う写真表現であるが、デジタル写真の一つの方向性を示しているものであろう。
同<優秀賞>(秋)松浦嘉人氏の『共存』。浜名湖を跨(また)ぐ東名高速道路の湖水での、のどかな風景写真。茜色に染まった湖水に仲良く羽を休める鷺(さぎ)や鴨(かも)、いやカモメかもしれない。美しい夕焼けの中での数種類の野鳥達のシルエットに誰もが安らぎを憶(おぼ)える風景。手前のボートの存在が人と自然の「共存」をイメージさせている。永くチャンスを待ち続けたであろう、羽ばたく鷺のシルエットが絵になっている。
同<優秀賞>(冬)木下安雄氏の『新フォトスポット』。東名高速道路 富士川SAで、ご当地キャラクターの「ふじひめ」とNEXCO中日本オリジナルキャラクターの「みちまるくん」に出会えるステージでの撮影とのこと。なんとも不思議な感じがする作品である。キャラクターの可愛らしさはもとより、現実の富士山が銭湯の看板絵の様に配されているのが面白い。正に「新フォトスポット」なのでしょう。
<佳作>加木屋千歳氏の『ワンダーランド』などは水面に映し出された光り輝く遊園施設をグラフィックカルに捉えたもので、アールデコの文様を見ているようで面白い。
<佳作>岩浅利泰氏の「打設準備完了」は雄大な富士の山頂をバックに配筋が整った枠組みに打設する様子を捉えたもので、望遠レンズ効果なのか山頂の真ん前に建設されているように見えるのが面白い。それにしても人と重なると富士の山頂は凄い迫力!
<佳作>山下多津美氏の『「立夏」前日の夜明け』。美しい写真である。ダイナミックレンジの広いカメラで撮影されたのでしょう。暗部のディティールの欠損もなく細部にわたって描写されているのが凄い!画像調整なども巧みではあるが彩度調整などは、やや控えめがいいのかも知れない。
「あなたのとっておき風景部門」で<最優秀賞>を獲得したのは 深野達也氏の『実りの秋』。これでもか!と、たわわに実をつけた柿の木に秋の夕日がまとっている。正に高尚な写実主義の油絵を見ているようである。よく見かける田舎の風景と言ってしまえばそれまでであるが、奇を衒(てら)うことなく、人の眼に近い画角のレンズでさり気なく切り撮っている作者の感性の鋭さを感じる。なにも足さない、なにも引かないといったところか。
<優秀賞>(春)早川幸夫氏の『思い出の学び舎(や)』。見事に咲き誇る桜の樹が校舎を覆っている。作者が学んでいた頃はこれ程立派な容姿を見せてはいなかったであろう。懐かしい学び舎のシンボルとしての桜の樹。その背景に夜空の星の軌跡などをうつしこむことにより、今に至るまでの時間の経過をうまくイメージさせている。古典的手法ではあるが、長時間露光など、かなり手の込んだ撮影がなされている。長年積み上げてきた手馴れたキャリアを感じる。
同<優秀賞>(夏)川合久司氏の『祭りの華』。厄落としとして開催される飛騨高山の手筒花火。手筒から放たれる火柱のなんと壮観なことか!盛夏の真っ只中、黒装束の花火師が降り注ぐ火花をもろともせず立ちはだかる姿に神々しささえ感じる。画面構成も力強い。
同<優秀賞>(秋)上野祐司氏の『天高く』は、続けて「~馬肥ゆる秋」と口ずさみたくなるような情景である。澄み切った群青色の空、横たわる鱗(うろこ)雲、その下は川の土手であろうか見事に咲き誇るコスモスの群生。メルヘン調な風景であるが、広角レンズとフィルターワークを駆使して上手く仕上げている。背景の日傘の人物が効いている。
同<優秀賞>(冬)勝田佑介氏の『気嵐立つ初日の出』。正月早々素晴らしい景色との遭遇である。気嵐の現象も極寒の地方でないとなかなか出会えないようで、澄み切った冷気のもと霧を透過する黄金色のなんと神々しいことか。手前の帆船のシルエットがこの作品を大いに際立たせている。
<佳作>星野郁男氏の『泳げ鯉(こい)のぼり』。相模原市の相模川で川の対岸を結んだワイヤーに1000匹もの鯉のぼりが泳ぐと言われている壮観なイベント。おそらく準備前なのか、ギュと固められた50匹を超えた鯉のぼりが所狭しと風に靡(なび)いている。その姿が、我れ先に餌に群がる鯉を見ているようで微笑ましい。
その他<佳作>小林壮寛氏の『楽しいタライ流し』は、子供の歓声までが聞えて来るようで、実に楽しい写真である。
同<佳作>相羽強氏の『散歩中』は、紅葉間近の森林の中、愛犬の背を撫(な)でる光が美しい。一枚の絵を見ているようだ。
同<佳作>伊藤善春氏の『雪の工場夜景』は、レンズ絞りを開放にすることにより、水銀燈で照らし出されたエメラルドグリーンの工場群に、淡い水色の水玉模様の雪が浮遊している幻想的な作品。
同<佳作>加藤昭七氏の『大雨後の花桃の里』は、雨上がりのモノトーンの風景の中、勢いを増して流れる水面と色鮮やかな桃の花との対比が美しい。色調調整では、もう少し彩度を抑えても良かったかも。
その他の入選作品もバラエティに富んでいて、秀逸な作品が多く、回を重ねるごとに当フォトコンテストに対する皆さまの関心の高さが作品の随所に表れていると、審査員一同強く感じています。
今回、両部門とも<最優秀賞>を獲得されたのは、ベテラン勢を抑えた30歳代の若い方々でした。次回も幅広い年齢層の方々のご応募をお待ちしています。
青山 佳世:フリーアナウンサー
2019 フォトコンテストを終えて
今年はいつにも増して、悩ましくも、楽しいフォトコンテストの審査のひと時になりました。これまでになかった地域の風景も増え、四季折々、芸術的、幻想的、水墨画的、愛らしいもの、微笑ましいもの、バラエティーに富んでいました。応募してくださった方の年齢層の幅が広がったのも嬉しく、選ぶのに一苦労、でも選ぶ醍醐味にあふれていました。
旅のテーマは 風光明媚な風景や、土地の人や生活に触れ合う体験型のものなど、最近は幅広くなってきました。実は私の大好きな旅のテーマは、かねがね建設現場や工場を見て歩くことでした。今やインフラツーリズムと呼ばれ、インスタ映えする工事現場や工場の夜景などを見るツアーが人気を博しています。このフォトコンテストは、主催がNEXCO中日本なので、当然高速道路が主役の一つになるわけですが、そもそもこの建設現場はダイナミックで 橋梁などもデザイン性が高く、そこに世界に誇る建設技術や、安全を確保しながら日々工事に励む人々に想いを馳(は)せると、ワクワクするような魅力に溢(あふ)れています。今回選ばれた作品の中にも 建設現場を自然光やライトの光のイリュージョンで映し出し幻想的な作品に仕上がっているものがありましたし、残念ながら選に漏れてしまった中にも、見事な作品がたくさんありました。
審査会のもう一つの大きな任務は、来年版のカレンダーに掲載する作品を選ぶこと。普通カレンダーの掲載写真を選ぶときには、ページごとに絵柄は異なりながら作風やトーンは揃えるように意識することが多いのですが、来年版のカレンダーは、ページをめくるごとに趣向が異なります。賛否両論あるかもしれませんが、これは皆さまからの応募作品だからこそできるアレンジでした。ことに年末を締めくくるのは、NEXCO中日本とご当地キャラのツーショット。実はこの作品を撮影された方は、ほかに美しい風景作品も寄せてくださいました。さてどちらを残すか、、、やっぱりキャラクターでしょう。みちと地域がしっかり結ばれてこそ、高速道路の使命を果たすという理念を可愛らしく表現していました。
令和元年も、各地で大きな災害が発生しました。被害に遭われた方や 地域の皆さまへ心よりお見舞い申し上げます。いつまでもこの美しい日本の風景を残しつつ、来たる一年も笑顔で締めくくってほしいという願いを込めて、力作ぞろいの作品の中から、7作品を選ばせていただきました。
来年も皆さま、各地を旅して元気になって、また地域も元気にしていただきながら、その素晴らしい瞬間を撮影して、感動を私たちにおすそ分けしてください。学生の方たちも参加してくださると嬉しいですね。皆さまにとって良い一年になりますように。