安全性向上3カ年計画の取組み状況
東西を結ぶ大動脈として、日本経済を支えてきた名神高速道路
開通からの50年は、安全性や利便性向上に取り組んできた歴史でした
●日本が経済成長を遂げるために重要な役割を果たした名神
名神高速道路(名神)が開通する以前は、道路のほとんどは雨が降ればぬかるみ、穴だらけになる砂利道でした。一方で日本の製造業は活気づき、日進月歩で進む技術革新により生産量が著しく増加していました。しかし、脆弱な道路網が障害となり生産能力に輸送力が追いついていませんでした。こうした状況下において、アメリカの経済学者ラルフ・T・ワトキンス調査団によってまとめられた報告書の中のある一文が、名神建設の原動力となりました。「日本の道路は信じがたいほどに悪い。工業国にして、これ程完全にその道路網を無視してきた国は、日本の他にない」。
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名神開通前の日本の国道の舗装率は21.9%、都道府県道ではわずか6%という状況でした。
●名神開通は、日本のモータリゼーションの幕開けであり、それは日本の経済成長の始まりでもありました
沿線にお住まいの方々のご理解とご協力のもと、人々の生活や山林などの自然環境にできるだけ影響を及ぼさないように建設された名神。この日本初の都市間高速道路によって、人々の移動時間は短縮され行動範囲は拡大しました。さらに、名神の完成は日本車の性能向上に繋がる要因にもなりました。開通前に本線上で行われた自動車走行実験の際、日本車には故障が相次ぎましたが、実験後各メーカーはすぐに改良に取りかかり、高速でも安定走行できる車に進化していきました。その後、国内における自動車保有台数は増え始め、トラックによる貨物輸送も急増しました。実際に名神の全線開通前と2009年の国内貨物輸送量を比較すると約3倍にも増加しており、そのうち自動車輸送が占める割合は64%にもなりました。そして、右肩上がりで増え続ける名神の交通量に比例するように、日本のGDPも順調に上昇を続け、全線開通時と2012年を比べると約14倍に増加しました。名神は開通から今日に至るまで、東西を結ぶ日本の大動脈として、日本経済の発展を支え続けています。
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高速走行を前提に作られていなかった国産車には原因不明のオーバーヒートや騒音、振動など、さまざまなトラブルが発生しました。
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自動車保有台数の推移
(出典:自動車検査登録情報協会) -
国内貨物輸送分担率
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日本のGDPと名神の交通量の推移
日本経済の発展を支えたもうひとつの大動脈 ~高速道路と新幹線~
日本の東西を結ぶ大動脈として、高速道路と新幹線はこれまでに多くの人と物を運んできました。また、高速道路の交通量の上昇と同じように、新幹線の輸送量も右肩上がりで増え続けてきました。日本経済の目覚ましい発展は、この二本の大動脈があってこそのものでした。
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新幹線の輸送人員と高速道路の利用台数の推移
(出典:国土交通省)
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名神の時間短縮効果
●産業や観光で、沿線地域の経済も活性化
小牧IC~西宮IC間の移動時間は、一般道を利用する場合約7時間かかりますが、名神を利用すると約2時間30分に短縮され、各地域間の人や物の流れは活性化しています。現在において、この短縮時間による経済効果を金額に換算すると、1年間で約5千億円に相当します(NEXCO中日本調べ)。また、インターチェンジ周辺には企業が続々と進出し、さらに高速道路を利用して多くの観光客が訪れ、地域の発展を支えました。日本経済を発展させた東西を結ぶ大動脈は、沿線地域の発展にも大きく貢献したのです。
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名神の時間短縮効果
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名神の東の玄関口となる小牧市では、開通当時と2012年度の製造品の出荷額を比べると約30倍にも成長し、5万人にも満たなかった人口も14万人を越えるまでになりました。
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小牧市の人口と製造品出荷額の推移
お客さまにより安全、安心・快適にご利用いただくため、開通から現在までさまざまな技術を進化させてきました
●迅速に作業を実施するために進化した維持管理技術
名神開通当初から、維持管理作業には当時の最新システムや最新技術の作業車が採用されました。開通から50年経った今、時代とともに高度化、多様化する作業を実施するため、作業車の機能・性能は格段に進化しています。
■路面清掃車
高速回転するブラシと強力な吸引機を駆使し、高速道路に落ちている小石や自動車の小さな部品などを回収します。本線内から落下物を排除することで安全に走行できる環境を維持します。
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開通初期に使用していた車両は、ブラシ式と真空式の2タイプが稼動していました。
現在の車両はブラシ式と真空式の長所を取り入れた乾式吸い込みブラシを採用しています。また車両後部には後続車両に注意喚起するためのLED標示板も取り付けています。
■標識車
高速道路を規制して作業を行なう際に、車両に搭載された情報板などで後続車に情報を知らせ、事故を未然に防ぎます。
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開通初期は、後続車への情報提供のために、文字が書かれた板をトラックの荷台に固定していました。
現在ではLED化に伴い、様々な情報を表示させることが可能となり、また、より視認しやすくなっています。
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渋滞情報の提供に役立てているトラフィックカウンターは、路面下や道路脇に設置されています。
●正確性も利便性も大きく向上した情報収集・提供技術
ITの進化にともない、開通時と比べ収集・処理できる高速道路上の情報量が増大しました。情報を処理する道路管制センターでは、高速道路上に設置された走行車の台数や速度を計測するトラフィックカウンターや、交通の流れや路面の様子をリアルタイムで確認できるCCTVカメラ、さらに雨量や路面温度などを計測する気象観測局から多くの情報を集めることで、各地の状況を詳細に把握できるようになりました。このように、お客さまに安全にご利用いただくための情報をより多く、わかりやすく提供するために、情報板も進化を遂げています。開通初期に使用されていたロール式の情報板から電光式、そして現在ではLED式へと進化したことで、多様な表現が可能になり、お客さまに提供できる情報の質も量も大幅に向上しています。
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渋滞情報の提供に役立てているトラフィックカウンターは、路面下や道路脇に設置されています。
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ロール式情報板では表示できる内容は数種類しかありませんでしたが、LED情報板では7色を用いて路線毎に必要な情報を表示できるようになりました。
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開通当時の道路管制センターでは、道路状況を把握する際手書きで作成した絵図面を使用していましたが、現在では大型モニターでさまざまな情報を管理できるようになっています。
●渋滞緩和にも貢献した、料金収受システムの進歩
距離に応じて料金を加算していく対距離料金制を円滑に運用できるように、開通当初は料金収受システムとしてパンチカードシステムが採用されました。そして、高速道路の延伸に伴いインターチェンジが増え処理すべき情報量が増えたこと、セキュリティを向上することなどの必要から、1988年にはパンチカードシステムから磁気カードシステムへと移行されました。しかし、どちらも料金精算の際に一旦停止しなければならず、それが渋滞発生の一因となっていました。そこで導入されたのが、時速20km以下で走行しながら通行料金の精算ができるETC(自動料金収受システム)です。2001年に運用が開始され、2015年3月現在では高速道路をご利用いただくお客さまの9割以上にETCをご利用いただいています。ETCがインターチェンジに設置されたことによって料金所での渋滞がなくなり、これを原因とする交通事故も減少しました。
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パンチカードシステムでは、入口の料金所で車種およびインターチェンジ番号を穴あけしたカードを発行し、その穴のパターンを出口の機械で読み取っていました。
磁気カードシステムでは、穴あけで処理していた情報を磁気に置き換えることで、扱える情報量を増やしました。現在も使われている方式です。
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ETCでは、無線通信を利用して車両と料金所のシステムが必要な情報を交換することにより、時速20km以下の速度であれば走行しながら料金所を通過できるようになりました。
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ETCでは、無線通信を利用して車両と料金所のシステムが必要な情報を交換することにより、時速20km以下の速度であれば走行しながら料金所を通過できるようになりました。
進化した舗装技術が、雨の日の安全をより確かなものにするとともに、騒音も減らしています
1957年に設立された名神高速道路試験所(現在の高速道路総合技術研究所)にて、舗装について研究を重ね、新たな舗装技術を導入することでより走りやすい道路を実現しています。1998年には、排水性や静粛性が高い高機能舗装が全面採用されました。
開通から1990年代まで主に使用されていた通常舗装 | 現在主に使用されている高機能舗装 | |
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排水性 | 材料の密度が高く路面内部にすき間が少ない構造で、雨水が路面にたまりやすく、水はねによる視界悪化や路面すべりの原因になります。 |
強度はそのままに、よりすき間の多い材料を採用することで路面の雨水を排水し、水はねによる視界悪化、路面すべりを低減します。 |
静粛性 | 路面にすき間がないため、走行時のエアポンピング音(路面とタイヤ溝の間に空気が入り回転の度に空気が圧縮→開放を繰り返すことで発生する音)が発生します。 |
路面にすき間が多いので、タイヤと路面の間の空気が圧縮されにくい分、エアポンピング音の音量を抑えます。 |
開通から1990年代まで主に使用されていた通常舗装 | 現在主に使用されている高機能舗装 |
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排水性 | |
材料の密度が高く路面内部にすき間が少ない構造で、雨水が路面にたまりやすく、水はねによる視界悪化や路面すべりの原因になります。 |
強度はそのままに、よりすき間の多い材料を採用することで路面の雨水を排水し、水はねによる視界悪化、路面すべりを低減します。 |
静粛性 | |
路面にすき間がないため、走行時のエアポンピング音(路面とタイヤ溝の間に空気が入り回転の度に空気が圧縮→開放を繰り返すことで発生する音)が発生します。 |
路面にすき間が多いので、タイヤと路面の間の空気が圧縮されにくい分、エアポンピング音の音量を抑えます。 |
これまでも、そしてこれからも、名神が日本の大動脈としての役割を果たし続けていくために
●構造物や設備の健全性を確認するために実施している4つの点検
高速道路をいつでも安全に、そして安心・快適にご利用いただくためには、構造物や設備が健全かどうかを確認することが重要です。そのためにNEXCO中日本では、国が定めた基準に基づき、構造物に合わせて必要な頻度や時期を定め点検をしています。
■初期点検
高速道路完成後ののり面やコンクリート擁壁、盛土といった土工構造物の状況を把握するため、近接目視、打音検査を行います。
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近接目視によるのり面の点検
■日常点検
補修が必要な箇所をいち早く見つけるため、点検車の車上からのり面などの構造物や路面の変状を確認し、必要に応じて降車して検査を行います。
路面のジョイント部の段差点検
■定期点検(詳細点検)
変状をもれなく発見するため、トンネル内の壁面の打音検査やジェットファンなど各設備の触診を行ったり、構造材の打音や目視検査を行います。対象物に接近するため橋梁点検車を使用したり、ロープを使用して移動するロープアクセス技術を用います。
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橋梁点検車によるコンクリート床版(自動車の荷重を直接受ける部材)の点検
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ロープアクセスによる橋脚の点検
■臨時点検
日常点検の経過観察では対応が難しい場合や異常気象時、また各点検を補完する場合に実施します。
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コンクリートの剥離や鉄筋の腐食を長い間放置しておくと、強度を維持できなくなってしまいます。
●安全で安心・快適な交通を守るため、磨き続けている補修技術
開通から50年が経過していることによる経年劣化、通行車両の増加や車両の大型化、過積載車両の通行、そして路面凍結を防止するための塩化ナトリウム散布による塩害によって、床版の鉄筋のサビや、床版下面のコンクリートの剥離、舗装のヒビ割れやわだち掘れなどの損傷が発生します。お客さまに安心して高速道路をご利用いただけるよう、いち早く損傷を発見し、各損傷に対して最適な補修を行います。
■床版防水工
床版に防水層を設置し、性能低下を引き起こす雨水の侵入を防ぎます。
■部分打ち替え
床版の損傷したコンクリート部位を取り除き、新しいコンクリートを打設することで耐力を回復させます。
■床版上面増厚工法
厚さの薄い床版の上面にコンクリートを打ち継ぎ、床版の厚みを増して耐力を向上させます。
■切削オーバーレイ工法
わだちやクラックが発生した舗装部分を削り取り新しく舗装することで、良好な状態に回復させます。
1993年の車両総重量規制緩和に対する補強対策
1993年、1台あたりの車両総重量が20トンから25トンに規制緩和され、車両の大型化が進んだ結果、路面や橋梁など構造物への負担が増大しました。そこで、総重量20トンの車両が走行できるよう設計された橋梁を中心に、耐荷力や耐久性向上の必要性および優先度を判定し、損傷の程度に応じて床版の厚みを増したり、橋桁を補強する対策を行いました。
名神の揖斐川橋では、平成8年度に橋梁の床版上面増厚工事を行いました。
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年間の交通規制回数
●短期間にまとめて補修することで、交通規制の回数を削減する集中工事
交通量が増えた近年では、日常的に交通規制を行うとお客さまのご迷惑になってしまうため、名神では1991年から短期間にまとめて補修工事を行う集中工事方式を導入しています。工事を個別に実施するよりも年間で約4割も交通規制回数を削減でき、渋滞発生の減少にも大きく貢献しています。
集中工事 https://www.c-nexco.co.jp/corporate/safety/torikumi/torikumi/vol01/
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年間の交通規制回数
点検と補修を繰り返し大切に使ってきた名神で、大規模更新・大規模修繕事業に着手します
名神が開通してから50年。交通量は増加の一途をたどるなか、東西を結ぶ大動脈として機能を果たせるよう、定期的に点検し補修を繰り返してきました。しかし、50年という歳月がもたらす経年劣化や、車両総重量規制緩和に伴う車重増、雪氷対策に使用する塩化ナトリウム、そして増え続ける交通量により、路面や設備は相応の損傷が蓄積してきています。こうした状況を広範囲で抜本的に解決するため、NEXCO中日本は2015年から大規模更新・大規模修繕に着手します。工事は長期間に渡り、対面通行や迂回などの交通規制も必要で混雑が予想され、ご不便やご迷惑をおかけしますが、ご理解とご協力をよろしくお願いします。
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2015年3月現在で使われている高速道路のうち、開通以来30年以上経過している道路が約6割を占めています。
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大型車両の通行が増加し、橋梁などの構造物の損傷が進んでいます。
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冬期に路面の凍結を防止するため、道路上に塩化ナトリウムを散布することで橋梁の床版の損傷が進行します。
名神と新名神のダブルネットワーク化の完成には、様々な経済効果が期待されています
NEXCO中日本では現在新名神高速道路(新名神)の建設を進めています。2008年にはその一部となる草津JCT~亀山JCT間が開通し、名神の迂回ルートが整備されました。その結果集中工事の渋滞は24%も減少し、さらに開通前、事故や積雪によって草津JCT~豊田JCT間で年間平均12回発生していた通行止めは、経路が2つになったことにより、わずか2回未満(集計期間:2008年3月~2012年8月)にまで激減しました。また、新名神は名神の交通量が分散されることによる渋滞そのものの緩和や、移動時間の短縮にも大きく貢献しています。そして2018年にNEXCO中日本管内の新名神が全線開通すれば、東名阪自動車道の渋滞解消も見込まれ、中部~関西間はもちろん、日本全国でも物や人の移動が活発化し、経済効果としても大きな期待が寄せられています。
ドライブにも役立つ『名神全線開通50周年SPECIAL BOOK』を配布します
名神全線開通50周年SPECIAL BOOKでは、名神高速道路の建設に携わった元社員の話や、現在現場で働いている社員の声、さらに、名神の知られざるトリビアやドライブに役立つ沿線ガイドを掲載しています。東海エリアの高速道路のSAやPAでもお配りしておりますので、どうぞお手にとってご覧ください。
名神全線開通50周年SPECIAL BOOK
https://www.c-nexco.co.jp/corporate/safety/torikumi/torikumi/vol07/pdf/meishin_50th_book.pdf