鳥居 正夫:写真家 / 青山 佳世:フリーアナウンサー / 宮池 克人:NEXCO中日本 社長 (順不同・敬称略)
鳥居 正夫:写真家
早いもので、当フォトコンテストも今年度で第10回を迎える事が出来ました。節目の回という事もあり、通常の募集テーマである「高速道路と四季の風景部門」とは別に「あなたのとっておき風景部門」というテーマを新しく加えてのフォトコンテストとなりました。
回を重ねるごとに多くの応募をいただいておりましたが、今回は両部門合わせて過去最高となる739作品もの応募をいただきました。審査会場を埋め尽くした作品群はまさに圧巻の一言で、力作ぞろいで息の抜けない楽しい審査会でした。
以下、受賞作品ごとにコメントしたいと思います。
「高速道路と四季の風景部門」で<最優秀賞>に輝いたのが、吉村誠氏の「目覚めるシティ」。新東名の新たな幕開けを象徴するように、絶妙なシャッターチャンスで捉えられた車の光跡が、アスファルト上を強力なライトでスポット照明しているかのようで、不思議な雰囲気漂わせ、まるでSF映画の一場面を見ているようです。
<優秀賞>に選出された中沢力男氏の「春の高速道路を往く」は、春の夕暮れでしょうか、墨絵の世界を思わせる様な控えめな色彩が穏やかな雰囲気を上手く醸し出しています。車の光跡を背景に桜の花がシルエット気味に浮かび上がり、薄暮に溶け込む尾灯の赤い光跡が美しいです。同<優秀賞>小松原清氏の「都田川に遊ぶ」は、真夏の静かな清流の中、戯れる乙女たちの黄色い歓声が聞こえて来るようです。同<優秀賞>越智優心氏の「収穫の時」は、手塩にかけて育てられ収穫された稲穂を天日干ししている充実のひと時であり、少年のあたたかい視線によって捉えられた、これぞ秋という風景です。同<優秀賞>大谷繁一氏の「除雪中」は、極寒の中、道路一面に除雪車が並んで作業をしている情景を捉えた一枚です。北陸自動車道では真冬の日常的な情景なのでしょうが、除雪車のすぐ真後ろから撮影できる場面に遭遇された事はとても稀な事なのではないでしょうか。惜しいのは、ご自身の車のフロントガラスのワイパーの拭き残しの曇り部分などが手前ボケで写し込まれていたら、外気の凍てつく厳しさがもっと伝わったかもしれません。その他の佳作および入選作品も力作が多く、あらためて当フォトコンテストに対する関心の高さを感じた次第です。
「あなたのとっておき風景部門」で<最優秀賞>に輝いたのは、高橋敏郎氏の「クライマックス」。愛知県豊田市の挙母まつりでの山車を引くスケールの大きな作品です。山車に群がる大勢の人々のエネルギーの頂点、まさに「クライマックス」を絶妙なタイミングとカメラアングルにより上手く捉えています。薄紅色の紙吹雪が舞う中、二重三重に重なった男達の姿が圧巻です。
<優秀賞>に選出された星野郁男氏の「ダイヤモンド富士の季節」は、真冬の凍てつく寒さの中、ダイヤモンド富士を捉えようとする人々を葦のシルエットと共に重ねて上手く画面に撮り込んでいます。ややもすると絵ハガキ的な写真になりがちなテーマですが、とてもリアルな躍動感のある作品になっていると思います。同<優秀賞>の深野達也氏の「秋の北アルプスを描く」は、全体のトーンがまさに一枚の油絵を観ている様でありとても気持ちのいい写真です。すでに冬仕度をしている壮大な北アルプスもさることながら、紅葉真っ只中の自然の中で絵を描く人。まさに至福の時間。この写真が持っている気持ち良さは、広角レンズが多用される事が多い風景写真の中にあって、奇をてらう事なく、人が持っている視覚に近い(標準~中望遠)レンズによって撮影された事に起因しているのかもしれません。同<優秀賞>の大学肇氏の「冬の朝」は、寒さ厳しい冬の明け方、静寂な水面から湧き上がる水蒸気、渡り鳥がゆったりとしたリズムで飛行する様、まさに日本画に描かれたような世界です。その他<特別賞>に選ばれた作品も含め、まさにさまざまなスポットやイベントにわたる「私のとっておき風景」であり、これは言い方を換えると「他人には教えたくない風景」でもあるのでしょうか。是非一度は訪れてみたいという思いに掻き立てられる作品が沢山ありました。